糖尿病の病態生理
※定義
 インスリン作用不足により起こる糖尿病は全身の代謝異常をきたす疾患群で、慢性の高血糖を主徴とする。
「糖尿病が強く疑われる人」が約740万人、「糖尿病の可能性を否定できない人」も含めると約1,620万人に達する。

※分類
 1型糖尿病では、インスリンを合成・分泌する膵ランゲルハンス島β細胞の破壊消失がインスリン作用不足の主要な原因である。
 2型糖尿病は、インスリン分泌低下をきたす素因を含む複数の遺伝的素因に、過食、肥満、運動不足、ストレスなどの環境因子および加齢が加わり発症するため、2型糖尿病の家系内血縁者にはしばしば糖尿病患者がいる。
 

※合併症
 慢性腎不全による新規透析導入患者は毎年3万人ほどいる。そのうち40%が糖尿病腎症患者で原因疾患の第1位となっている。
 糖尿病の合併症
糖尿病合併症には、インスリン作用不足が高度になって起こる急性の合併症と長年にわたる慢性の高血糖によって起こる慢性の合併症がある。
  ○急性合併症:糖尿病昏睡、急性感染症、意識障害、低血糖昏睡
  ○慢性合併症
     細小血管症:末梢神経障害、網膜症、腎症
     大血管症 :虚血性心疾患、脳血管障害、閉塞性動脈硬化症、壊疽
     その他  :高血圧、高脂血症、慢性感染症、皮膚疾患、肝機能障害、胆石症、白内障


※症状
△高血糖症状
 高血糖の場合、急激な体重の増加でなく、急激なやせといった特徴的な症状を示す。
早朝空腹時の血糖値が、糖尿病の基準値(126mg/dL)程度の上昇では、自覚症状はほとんどない。200mg/dL以上の持続する高血糖により。口渇、多飲、夜間頻尿、急激なやせ、多食、易疲労といった特徴的な症状をきたす。
△低血糖症状
 低血糖は食事を抜いたり、食事が遅れたり、過剰な運動をしたときになどに起こる可能性がある。発汗、不安、動悸、頻脈、手指振戦、顔面蒼白、頭痛、眼のかすみ、空腹感、眠気(生あくび)、意識レベルの低下、異常行動、けいれん等といった症状が現れる。自律神経障害により交感神経刺激症状が欠如する場合、また繰り返して低血糖を経験することにより、低血糖は前兆がなく容易に昏睡に至り重症になるので注意を要する。


※検査
「糖尿病型と判定する」検査結果
 随時血糖値200mg/dL以上、早朝空腹時血糖値126mg/dL以上、
75gOGTTで2時間値200mg/dL以上のいずれかに該当する場合には糖尿病型と判定する。
 HbA1cが6.5%以上であれば糖尿病であると診断できる。
口渇、多飲、多尿、体重減少など糖尿病の特徴的な症状があって、さらに「糖尿病型」であれば糖尿病と診断してよい。

△血糖コントロールの指標と評価
コントロールの評価 不可
HbA1c(%) 5.8未満 5.8〜6.4 6.5〜7.9 8.0以上
空腹時の血糖値(mg/dl) 100未満 100〜119 120〜139 140以上
食後2時間の血糖値(mg/dl) 120未満 120〜169 170〜199 200以上

 HbA1cは赤血球中のヘモグロビンにグルコースが結合したものである。HbA1cは赤血球の寿命から、採血時より1〜2カ月前までの平均血糖値を反映し、血糖コントロール状態を評価する上できわめて重要な指標である。フルクトサミンは蛋白の血中半減期を反映した約2週間前までの血糖レベルを知ることができる。

△その他のコントロールの指標
・体重
 標準体重(kg)=[身長(m)]×[身長(m)]×22
  BMI(bodymassindex)=体重(kg)÷[身長(m)]×[身長(m)]≒22
    ※BMI=22が長命であり,かつ病気になりにくい体重という報告。
     BMI=20〜24を目標にする。
     BMI=20を下回っても必ずしも積極的に体重増加を図らなくてもよい。
     BMI=25以上を肥満とする。肥満の人はまず24以下を目標にし、達成後20歳時の体重を目標にするなど、個人の体重変化の既往、身体活動量などを参考に決める
・血圧
 収縮期血圧:130mmHg未満  拡張期血圧:85mmHg未満
・血清脂質
 総コレステロール  :200mg/dL未満(LDLコレステロール:120mg/dL未満)
 中性脂肪        :150mg/dL未満(早朝空腹時)
 HDLコレステロール:40mg/dL以上
・合併症有無の検査
 

糖尿病の治療

◆糖尿病治療の目的
・血糖、体重、血圧、血清脂質の良好なコントロール状態の維持
・糖尿病性細小血管合併症および動脈硬化性疾患の発症、進展の阻止
・健康な人と変わらない日常生活の質(QOL)の維持、健康な人と変らない寿命の確保


◆食事療法・運動療法
  食事療法は、すべての糖尿病患者において治療の基本であり、出発点である。食事療法の実践により、糖尿病状態が改善され、糖尿病合併症の危険性は低下する。
男性では1,400〜1,800kcal、女性では1,200〜1,600kcal。
運動によりインスリンの感受性の改善、脂質代謝の改善、血圧の低下が認められ、また、心肺機能を良くし生活の質の改善させるため、治療の一部として運動療法が行われる運動時の脈拍を100〜120拍/分以内にとどめる。眼底出血や腎不全、心・肺機能に障害がある場合などは、運動を禁止あるいは制限した方がよいため医師の指示に従う。
    歩行運動:1回15〜30分間、1日2回


◆経口糖尿病治療薬の特徴と適応
  良い血糖コントロールが得られるならば,どの薬剤も第一選択薬になりうるが、薬剤の選択は作用の特性や副作用を考慮に入れながら個々の患者の状態に応じて行う。
  ※インスリンの絶対的適応
   インスリン依存状態、糖尿病昏睡、重症の肝障害・腎障害を合併しているとき、重症感染症、外傷、中等度以上の外科手術、やせ型で栄養状態が低下している状態、糖尿病合併妊婦、高カロリー輸液時の血糖コントロール、SU薬アレルギー

*SU薬 :自己のインスリン分泌が比較的保たれており、食事療法、良好な血糖コントロ ールが得られないインスリン非依存状態の患者に用いる。2種類のSU薬の併用は治療上 意味がない。長期間使用していると臨床効果がなくなる場合がある。(二次無効)

*BG薬 :インスリン抵抗性の強い過体重・肥満2型糖尿病例に有効である。SU薬の効果不十分例に併用される。また、インスリン治療例にも併用できる。

*α−GI薬:空腹時血糖はさほど高くなく(126mg/dL未満)、食後に高血糖(200mg/dL 以上)になるようなインスリン非依存の症例に適応となる。また、SU薬やインスリン治 療例で、食後著しい高血糖がある場合に併用効果が期待できる。

*インスリン抵抗性改善薬:インスリン抵抗性の関与が強い(BMI=25以上の肥満、インス リン値15μU/mL以上など)インスリン非依存状態では,有効率が高い。

*速効型インスリン分泌促進薬:食後高血糖がみられる軽症の早期糖尿病患者によい適応 である。食事療法・運動療法のみを行っている場合では,空腹時血糖が120mg/dL以上 または食後血糖1時間値または2時間値が2OOmg/dL以上の患者に限る。α−GI薬使用し ていて速効型インスリン分泌促進薬を追加する場合には、空腹時血糖が140mg/dL以上を目安とする。

◆各インスリン製剤の特徴
  超速効型 速効型 中間型 持続型
発現時間 10〜20分  0.5時間 約0.5〜1.5時間 約4時間
最大 1〜3時間 1〜3時間 2〜12時間 8〜24時間
持続時間 3〜5時間 約8時間 約24時間 24〜28時間

 インスリンの投与量の変更
インスリンの作用時間と血糖日内変動を参考にして、インスリン投与量を変更する。
血糖コントロールの状況が2〜3日間同じ傾向を示した場合、1回につき1時点のみ2〜4単位増量・減量する。
@インスリン皮下注射は腹部・上腕・大腿の順で吸収が遅くなる。注射部位の硬結や萎縮隆起を予防するため、前回の注射箇所より3cmほどずつ移動して注射する。
Aインスリン注射部位はもむことにより吸収が早くなり低血糖を引き起こす可能性があるため、注射部位はもまない。


糖尿病の治療薬の服薬指導例

SU薬  インスリンを分泌している膵臓のランゲルハンス島に作用してインスリンがもっと出てくるように働きかけ、血糖を下げる薬。
※飲み忘れたとき:思い出したときすぐに服用する。ただし次の服用が近いときは忘れた分は服用しない。
BG薬  膵臓の機能に関係なく筋肉での糖の利用を高めたり、肝臓で糖をつくるのを抑制することによりインスリンの効きをよくし、血糖を下げる薬。
※飲み忘れたときすぐに服用する。ただし次の服用が近いときは忘れた分は服用しない
α−GI薬  小腸粘膜に存在する糖分を分解する分解酵素の働きを抑えることで、糖質の消化・吸収を遅らせ食後の急激な血糖の上昇を抑える薬。
※飲み忘れたとき:食直前に飲み忘れたときには食事中に服用する。ただし食後また空腹時には服用しない。
インスリン抵抗性改善薬  筋肉や脂肪組織に存在するインスリンが結びつく部位の機能を改善して、血液中の糖が筋肉や脂肪組織に取り込まれるのを進めて代謝を促進し血糖を下げる薬。
※飲み忘れたとき:朝服用を忘れた時は昼食時に服用する。それ以降については服用しない。
速効型
インスリン分泌促進薬
 インスリンを分泌している膵臓のランゲルハンス島に作用して食後早期にインスリンがもっと出てくるように働きかけ、血糖を下げる薬。
※飲み忘れたとき:食前に服用を忘れた場合は、次の食事まで待ち、次の食事の食直前に必ず1回量を服用する。

























▽糖尿病に影響を及ぼす薬の例
 ・プレドニン:重大な副作用として糖尿病があり臨床上問題となる。
 ・ジプレキサ:ジプレキサとの関連性が否定できない高血糖、ケトアシドーシス、糖尿病性昏睡の重篤な症例が報告されており、糖尿病の患者あるいは糖尿病既往歴のある患者には投与禁忌である。
 ・リスモダン:重大な副作用として低血糖があらわれることがある。低血糖症状が認められた場合にはブドウ糖を投与するなど適切な処置を行うこと。高齢者、糖尿病、肝障害、血液透析を含む腎障害、栄養状態不良の患者に発現しやすいとの報告がある。
 ・ラシックス:ラシックス投与によって生じる低カリウム血症により、細胞内カリウムの喪失も招き、その結果、インスリン分泌抑制とともに、インスリン抵抗性を生じる可能性がある。


▽単独で低血糖を起こす糖尿病薬は?
  ・ベイスン:小腸粘膜に存在する二糖類分解酵素を阻害することにより、糖消化を抑制し、吸収を遅らせ食後の高血糖を抑制する。単独投与では低血糖をきたす可能性はきわめて低い。
  ・ファスティック:膵β細胞膜上のSU受容体に結合しインスリン分泌を促進し、血糖降下作用を発揮する。低血糖に注意すべきである。
  ・メルビン:肝での糖新生の抑制が主であるが、その他消化管からの糖吸収の抑制、末梢組織でのインスリン感受性の改善などがあり、血糖降下作用を発揮する。単独投与で低血糖は起こらない。
  ・アクトス:インスリン抵抗性の改善を介して血糖降下作用を発揮する。インスリン分泌促進作用はないため、単独投与では低血糖の危険は少ない。


治療での注意や日常生活

◇副作用早期発見のための検査時期
 グルコバイ:劇症肝炎等の重篤な肝機能障害が現れることがある。これらは投与開始後概 ね6カ月以内に認められる場合が多いので、投与開始後6カ月までは月1回、その後も定 期的に肝権能検査を行う。
アクトス :心電図異常や心胸比増大が現れることがあるので、定期的に心電図検査を行 うなど十分に観察する。また、肝横能障害、黄痘が報告されているので、少なくとも投 与開始後12カ月までは1カ月に1回肝機能検査を実施し、以降も定期的、3カ月に1回程度 に肝機能検査を実施する。


◇低血糖を起こしやすい条件
 食事が遅れたり、食事量または糖質の摂取が少ない場合、いつもより強く長い身体活動(たとえばゴルフ)の最中または運動後。強い運動あるいは長時間運動した日の夜間および翌日のの早朝。
低血糖時の対応
・ブドウ糖(5〜10g)またはブドウ糖を含む清涼飲料水(150〜200ml)をとる。
・砂糖では少なくとも倍量(10〜20g)とる必要があり効果も遅い。
・α−GI薬服用中の患者ではブドウ糖のみ有効である。
・グルカゴンの注射

◇Sickdayとは
 糖尿病患者が治療中に発熱、下痢、嘔吐をきたし、または食欲不振のため食事ができないときをSickdayと呼ぶ。このような状態では,インスリン非依存状態で平常良くコントロールされている患者でも著しい高血糖が起こったり、ケトアシドーシスに陥ることがある。インスリン依存状態患者ではさらに起こりやすく、特別の注意が必要である。

◇Sickday時の対応
・Sickdayのときには主治医に連絡し指示を受けるようにする。インスリン治療中の患者は、食事がとれていなくてもインスリン注射を続けること原則とする。発熱、消化器症状が強いときは必ず医療機関を受診するように指導する。
・十分な水分の摂取により脱水を防ぐようにする。
・食欲のない時には、日頃食べ慣れていて口当たりがよく消化のよい食物(おかゆ,ジュース、アイスクリームなど)を選び、できるだけとるようにする。(絶食しないようにする)
・血糖値を測定する。
  
◇日常生活指導
  患者に糖尿病をよく理解し進んで目標を達成しようとする意欲をもってもらうことが糖尿病教育の主幹である。
(1)正しい食事
(2)適度な運動
(3)足の手入れ
(4)禁酒
(5)禁煙



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