うつ病
※うつ病・うつ状態とは

  うつ状態(抑うつ状態ともいう)とは,一般に気持ちが沈み込んでいる状態を示し、
うつ病の診断に至っていない段階に用いられる。
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 一方、「うつ状態」を中心として、興味・食欲・性欲などの欲求が低下する場合、
注意の持続や希死念慮などの集中力・認知に障害が及ぶ場合、
 また自殺などの衝動性の制御が困難になる場合に結果として生活に支障をきたした時、
「うつ病」と診断される。
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  うつ症状は様々な形態で現れる。

睡眠障害   :: 寝つけない、何度も目が覚める、熟睡できない、朝早く目が覚める。
        夢ばかりみる、疲れているのに目がさえている

身体症状   :体がだるい(倦怠感)、頭が働かない、仕事に身が入らない。
        食欲低下、体重減少、便秘、口渇 。
        頭痛、頭重感、肩こり、体の痛み、性欲減退。

気分感情の障害:気分が憂うつ、さびしい、悲しい、
        不安でたまらない、どうにかしたいと焦ってばかりいる

意欲の障害  : 意欲がなくなる、物事におっくうになる、興味、関心がなくなる、
         喜びを感じなくなる。

思考・判断力の障害:考えが進まない、悲観的になる、判断や決断ができない。
             自分を責める、自分がだめな人間に思える

行動の障害     :行動範囲が狭くなる、動作が鈍くなる。
             身の回りのことができなくなる。自殺企図。



※気分障害・感情障害の分類

 「気分障害」というのは、落ち込んだ気分が続いたり、ふつうではない気分の高揚状態が続いたりして、
生活上なんらかの障害が起きている、という意味。

 一時期は、「感情障害」と呼ばれていたが、喜怒哀楽など、ころころと変わる「感情」よりも、
一定期間続く「気分」の方がふさわしいということから、「気分障害」と呼ばれるようになった。

 「気分障害」は、一般的に知られている病名でいえば、「うつ病」や「躁うつ病」のことを指す。
しかし、うつ病や躁うつ病には、さまざまなパターンがある。
 
それをより詳しく分類して、正確な診断を下すために、近年、次の2つの分類・定義が、
医療現場で利用されるようになった。

(1)DSM−IV
 アメリカ精神医学会(APA)が発行する精神疾患の診断・統計マニュアル 第4版
 Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorder - IV

(2)ICD−10
 WHO(世界保健機構)の疾病及び関連保健問題の国際統計分類 第10版
 International Statistical Classification of Diseases and
Related Health Problems - 10
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DSM−IV
6.気分障害

◎双極性障害
   I型双極性障害・・・躁病とうつ病
  II型双極性障害・・・軽い躁症状とうつ症状
  気分循環性障害・・・軽い躁症状と軽いうつ症状
  特定不能の双極性障害
  うつ病性障害

◎大うつ病性障害・・・ふつうにいううつ病。軽度、中等度、重度に分けられる。
  気分変調性障害・・・軽いうつ症状が2年以上続く(抑うつ神経症)
  特定不能のうつ病性障害(DSM−IV−TRの試案では「抑うつ関連症候群」)
  抑うつ関連症候群(DSM−IV−TRの試案)
    ・小うつ病性障害・・・症状の軽いうつ病(軽症うつ病)
    ・反復性短期抑うつ障害・・・短期のうつ状態が繰り返される(軽症うつ病)
    ・月経前不快気分障害・・・女性特有の生理的うつ状態

◎一般身体疾患を示すことによる気分障害

◎特定不能の気分障害

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ICD−10
気分「感情」障害(F30−F39)

F30 躁病エピソード
  F30.0 軽うつ病
   F30.1 精神病症状を伴わない躁病
   F30.2 精神病症状を伴う躁病
   F30.8 その他の躁病エピソード
   F30.9 躁病エピソード、詳細不明

F31 双極性感情障害<躁うつ病>
   F31.0 双極性感情障害、現在軽躁病エピソード
   F31.1 双極性感情障害、現在精神病症状を伴わない躁病エピソード
   F31.2 双極性感情障害、現在精神病症状を伴う躁病エピソード
   F31.3 双極性感情障害、現在軽症又は中等症のうつ病エピソード
   .30 身体症状をともなわないもの
   .31 身体症状をともなうもの
   F31.4 双極性感情障害、現在精神病症状を伴わない重症うつ病エピソード
   F31.5 双極性感情障害、現在精神病症状を伴う重症うつ病エピソード
   F31.6 双極性感情障害、現在混合性エピソード
   F31.7 双極性感情障害、現在寛解中のもの
   F31.8 その他の双極性感情障害
   F31.9 双極性感情障害、詳細不明

F32 うつ病エピソード
   F32.0 軽症うつ病エピソード
   .00 身体症状をともなわないもの
   .01 身体症状をともなうもの
   F32.1 中等症うつ病エピソード
    .10 身体症状をともなわないもの
    .11 身体症状をともなうもの
   F32.2 精神病症状を伴わない重症うつ病エピソード
   F32.3 精神病症状を伴う重症うつ病エピソード
   F32.8 その他のうつ病エピソード
   F32.9 うつ病エピソード、詳細不明

F33 反復性うつ病性障害
   F33.0 反復性うつ病性障害、現在軽症エピソード
    .00 身体症状をともなわないもの
    .01 身体症状をともなうもの
   F33.1 反復性うつ病性障害、現在中等症エピソード
    .10 身体症状をともなわないもの
    .11 身体症状をともなうもの
   F33.2 反復性うつ病性障害、現在精神病症状を伴わない重症エピソード
   F33.3 反復性うつ病性障害、現在精神病症状を伴う重症エピソード
   F33.4 反復性うつ病性障害、現在寛解中のもの
   F33.8 その他の反復性うつ病性障害
   F33.9 反復性うつ病性障害、詳細不明

F34 持続性気分「感情」障害
   F34.0 気分循環症
   F34.1 気分変調症
   F34.8 その他の持続性気分「感情」障害
   F34.9 持続性気分「感情」障害、詳細不明

F38 その他の気分「感情」障害
   F38.0 その他の単発性気分「感情」障害
    .00 混合性感情性エピソード
   F38.1 その他の反復性気分「感情」障害
    .10 反復性短期うつ病性障害
   F38.8 その他の明示された気分「感情」障害

F39 詳細不明の気分「感情」障害

   ※ICD−10の用語の説明
    エピソード・・・症状が発現している状態のこと
    精神病症状・・・妄想や幻覚をともなうこと  




※うつ状態と躁状態


うつ状態とは

抑うつ気分
 憂うつでもの悲しい気分、興味や楽しみのなさがあり、ときには高度の不安・焦燥感,
些細な失敗に対する深い自責感やとめどない後悔などがあり、
朝方調子が悪く、午後から夕方にかけて上向くといった気分の日内変動がみられることが多い。

思考の異常
 思考の進行が渋滞し、自分を過小評価し、悲観的で取り越し苦労をする。
躁状態の誇大妄想に対比されるものに微小妄想があり、
これには貧困妄想、心気妄想、罪業妄想が含まれる。

意欲・行動の異常
 表情に生気を欠き、動作がおそく、口数も少ない。わずかな選択や決定に手間どり、
重症になると動きの停止した抑うつ性昏迷の状態を呈す。
 逆に不安や焦燥感が強いと、落ち着きなく徘徊することがある。
また強い絶望感や無力感から、希死念慮が出現し自殺企図に至ることがある。

身体症状
 不眠、とくに早朝覚醒や熟眠感の喪失、全身倦怠感、頭重感、胸内苦悶、息苦しさ、便秘、口渇、
寝汗、性欲減退、月経不順など。

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躁状態とは

気分の高揚
 爽快、快調で自信に満ち、幸福感、万能感があります。些細なことで感激し、立腹することがある。
ときに易刺激性、攻撃的となる。

思考の異常
 話題が豊富で関連ある観念がとめどなく浮かんできて、全体としての論理の飛躍があり、
まとまらなくなる(観念奔逸)。自己の過大評価が生じて自慢したり大げさに吹聴する。
これらは誇大妄想に発展することがある。

意欲・行動の異常
 表情は生気に満ち、活発に動きまわり、多弁で、疲労しない(行為心迫)。
訪問、電話、手紙などで一方的に他人に干渉する。
高価な買い物をしたり、計画を次々に立てるが計画倒れも多い。

身体症状
 快調感、健康感があるため身体症状を訴えることは少ない。食欲と性欲は亢進する。
不眠となり睡眠時間は短縮するが疲労感がなく、睡眠障害は苦痛でないことが多い。




※うつ病の原因
 脳は、絶えず活発に働いている。
脳の中では、化学物質が作られ、その物質が分泌され、電気も起こっている。

 こうした活動に、体の運動や感覚はもちろん、喜びや悲しみ、
そして体の調子を感じとるというような脳の働きが支えられている。

 うつ病ではこうした化学物質の活動の調子が一時的に乱れていると考えられる。
このため、健康な時とは質の違った悲しみや苦しみを経験する。

うつ病の病態生理は明確ではないが、脳内神経細胞終末からの
神経伝達物質(セロト二ン、ノルアドレナリンなどのモノアミン)の放出が減少しているため、
シナプス間隙の神経伝達物質の量が減少していることが関係している
と考えられている(「モノアミン仮説」)。

 また、モノアミン(セロトニン、ノルアドレナリン)受容体機能が亢進しているため、
シナプス間隙での神経伝達物質の量が減少していることが関係している
という仮説もある(「受容体感受性亢進説」)。



※抗うつ薬の主な薬理作用

抗うつ薬の主な薬理作用は,モノアミン(セロトニン、ノルアドレナリン)の神経終末における再取り込み阻害である。
   三・四環系抗うつ薬:セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害作用
     SSRI :選択的セロトニン再取り込み阻害作用
     SNRI :セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害作用

分類分類 一般名一般名 商品名商品名
第1世代 三環系 イミプラミン トフラニール(ノバルティス)など
  アミトリプチリン トリプタノール(萬有)など
トリミプラミン スルモンチール(塩野義)
ノルトリプチリン ノリトレン(大日本)
クロミプラミン アナフラニール(ノバルティス)
アモキサピン アモキサン(レダリー・武田)
ロフェプラミン アンプリット(第一)
第2世代 ドスレピン プロチアデン(科研)
四環系 マプロチリン ルジオミール(ノバルティス)
ミアンセリン テトラミド(三共)
セチプチリン テシプール(持田)
その他 トラゾドン レスリン(オルガノン)
デジレル(ファルマシア)
第3世代 SSRI フルポキサミン デプロメール(明治製薬)
ルボックス(藤沢)
パロキセチン パキシル(グラクソ・スミスクライン)
第4世代 SNRI ミルナシプラン トレドミン(旭化成・ヤンセンファーマ)


三環系抗うつ薬、四環系抗うつ薬の注意すべき副作用
1. 抗アセチルコリン作用 口渇、便秘、排尿障害、視力調節障害
2. α1受容体遮断作用 起立性低血圧(たちくらみ)−ふらつき、転倒の原因になる
3. 抗ヒスタミン作用 眠気

SSRI・SNRIの副作用 嘔気、食欲不振、眠気、倦怠感、口渇、不眠、不安、焦燥


※日常生活指導

ストレスをためない生活を送る。
(1)自分の性格を知る。
まじめで凡帳面,完璧を目指す性格の人は,ストレスがたまる。
これを避けるには,こうした自分の性格を心得る。
(2)がんばりすぎない。
休んだ後に遅れを戻そうと考えたりしない。
(3)自分への負担を軽くする。
何でも自分ひとりでやろうとすると,ストレスがたまる。負担を軽く。
(4)マイペースな生活をする。
他人がどのように思っているかなどを気にしない。
(5)環境が変化する時は,十分に休養する。
(6)アルコールの飲み過ぎに注意。



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