消化性潰瘍の病態生理
※消化性潰瘍の病態
胃、十二指腸などの粘膜組織に生ずる欠損の中で、特に胃酸やペプシンの消化作用によるものを消化性潰瘍という。普通粘膜層だけの欠損の場合はびらんと呼び、粘膜下層より深い組織欠損を潰瘍としている。

びらんと潰瘍のちがい模式図


※消化性潰瘍の分類
  慢性潰瘍は通常、活動期・治癒期・瘢痕期に分類される。崎田分類(ステージ分類)が汎用されており、活動期(A1・A2)、治癒期(H1・H2)、瘢痕期(S1・S2)に分けられる。
  活動期--A1:潰瘍辺緑に浮腫を伴い潰瘍底は一般に白苔ないし黒苔で覆われている。出血性のものでは
           潰瘍底に露出血管や黒苔を認めることが多い。
         A2:辺緑の浮腫が改善し潰瘍底は自苔に覆われる。
  治癒期--H1:潰瘍辺縁に再生上皮の出現を認める。
         H2:白苔は薄く縮小し再生上皮の部分が拡大してくる。
  瘢痕期--再生上皮による被覆が完成し自苔は消失する。
        S1:赤色瘢痕
        S2:白色瘢痕


※消化性潰瘍の成因
 胃酸は消化性潰瘍の発症に必須であり、かつ中心的役割を果たしていると考えられてきた。しかし、ピロリ菌(H.pylori)の発見によって、消化性潰瘍発症の病態にピロリ菌感染が深く関わっていることが明らかになってきた。現在はピロリ菌感染、NSAIDs、ストレスが三大要因であり、胃酸がそれぞれに共通した増悪因子であると考えられている。

 ピロリ菌感染:直接的に胃粘膜を傷害したり、強力な胃粘膜上皮細胞傷害を引き起こす炎症反応惹起因子を産生する。
 NSAIDs:胃粘膜における内因性プロスタグランジンの減少などにより粘膜抵抗性を減弱させる。
 ストレス  :ストレスが加わると自律神経系を介して胃粘膜血流が低下したり、酸分泌が亢進する。


※ピロリ菌感染診断法
 ピロリ菌感染診断法には内視鏡による生検組織を必要とする検査法と内視鏡による生検組織を必要としない検査法とがある。

 ◎内視鏡による生検組織を必要とする検査法
   迅速ウレアーゼ試験:迅速性に優れ、簡便で精度は高い。鏡検用の生検組織の採取を同時に行うことが望ましい。
   鏡検用:ピロリ菌の存在の他に組織診断を合わせてできる。
   培養法:ピロリ菌の唯一の直接的証明法である。特異性に優れ、ピロリ菌の薬剤耐性の検討には不可欠である。

 ◎内視鏡による生検組織を必要としない検査法
   尿素呼気試験:簡便で感度・特異性ともに高い。尿素呼気試験陰性の場合は、除菌成功の信頼性は高い。
   抗ピロリ菌抗体測定(血清、全血、尿、唾液):抗体が陰性の時は感染初期や免疫不全などの特殊な場合を除き、ピロリ菌感染陰性と診断できる。除菌成功後も抗体の陰性化あるいは有意な低下には1年以上を要することがあるため、除菌の成否を早く知りたい場合には適さない。
   便中抗原測定‥簡便で,除菌前の感染診断においては、感度・特異性ともに高いとされている。除菌判定においても信頼性が高いが、偽陰性例が起こりうるので注意が必要である。


※胃潰瘍の自覚症状
  胃潰瘍の自覚症状は、心窩部痛から、上腹部不快感、胸やけ、げっぷ、呑酸と多様であり、無症状の場合もしばしばみられる。疼痛は2/3以上に認められるが、上腹部に限局していることが多く、性状としては、鈍い、疼くような、焼けるような痛みであり、一般的に持続的である。食事と疼痛との関係は強く、胃潰瘍では胃内容物が排出される食後60〜90分に疼痛をきたす。

※十二指腸潰瘍の自覚症状
  十二指腸潰瘍の場合は、空腹時痛、特に夜間や早朝時の腹痛が多く、摂食により軽滅する。背部への放散痛を訴えることもある。


※消化性潰瘍の確定診断に必要な検査
上部消化管造影検査・上部消化管内視鏡検査・ピロリ菌感染診断


消化性潰瘍の治療

※ピロリ菌除菌
 2種類の抗生物質とプロトンポンプ阻害薬の3剤を1日2回服用し、1週間続けます。
集中的にたたくことで90%の患者さんは除菌に成功する。
治療期間フローチャート

種類 一般名 商品名 1回服用量
PPI ランソプラゾール タケプロン 30mg 1カプセル
抗生物質 アモキシシリン サワシリン 250mg 3カプセル
クラリスロマイシン クラリス 200mg 1錠または2錠


※PPlの保険適応
  胃潰瘍、吻合部潰瘍:8週間まで
  逆流性食道炎    :8週間まで。さらに再発・再燃を繰り返す場合には維持療法として長期に投与できる。
  十二指腸潰瘍    :6週間まで


※ピロリ菌除菌治療の効果
 ピロリ菌陽性であることが確認された消化性潰瘍では、ピロリ菌除菌療法を行うことにより潰瘍の治癒率が向上し、再発率も低下する。


※NSAIDs潰瘍の治療
 NSAIDsは可能であれば中止し,通常の潰瘍治療を行う。慢性関節リウマチあるいは骨関節疾患などの基礎疾患を持つ多くの患者ではNSAIDsの中止が困難であるため、NSAIDsを投与しながら、潰瘍治療を行う。NSAIDsの中止が不可能ならば、PPIあるいはPG製剤により治療を行う。
 NSAIDs潰瘍の予防には,PG製剤,PPl,高用量のH2受容体拮抗薬が有効である。
また,従来のNSAIDsよりも選択的COX−2阻害薬の使用が望ましいと考えられる。





消化性潰瘍治療薬の服薬指導例

PPl 胃酸分泌の最終過程で働く酵素(プロトンポンプ)の働きを抑えるとにより、強力に胃酸の分泌を抑え、胃粘膜や胃壁・十二指腸の自己消化を防ぐ薬。
H2受容体拮抗薬 胃粘膜上の胃酸分泌に関係する特定な部位(ヒスタミン受容体)を、遮断することにより胃酸やペプシンの分泌を抑え、胃粘膜や胃壁・十二指腸の自己消化を防ぐ薬。
抗コリン薬 消化管の働きを促進する物質(アセチルコリン)の働きを抑えることにより、消化管の運動や胃酸の分泌を抑え、胃粘膜や胃壁・十二指腸の自己消化を防ぐ薬。
制酸薬 胃酸を中和し胃酸の働きを抑えて、胃粘膜や胃壁・十二指腸の自己消化を防ぐ薬。
粘膜増強薬 潰瘍の部位に直接くっつくことにより胃壁を保護し、胃液中のペプシンの働きを抑え(アルサルミン)、胃の出血を抑え(アルロイドG)、胃粘膜の炎症を抑え(マーズレンS)、胃粘膜を保護する薬。
粘膜血流組織修復促進薬 胃粘膜の血液の流れをよくし、胃粘液成分の合成と分泌を高めたり、胃の粘膜と粘液を正常に保つ働きをする物質(プロスタグランジン)を増やすことにより、潰瘍の組織を修復する薬。
PG製剤 胃酸の分泌を抑え、胃粘膜の血液の流れをよくし、粘液の分泌を高め、粘膜の細胞を保護する働きをする物質(プロスタグランジン)で、直接投与することにより胃の粘膜を保護し組織を修復する薬。
その他(ドグマチ−ル) 中枢の視床下部に直接作用することにより、胃腸の血液の流れを増加させ粘膜組織を修復し、また胃・小腸の運動をよくし、内容物の排出及び通過を促進する薬。




日常生活指導

(1)規則正しい生活リズムと十分な休息
(2)規則正しい食事
(3)禁煙
(4)ストレスの解消
(5)禁酒
(6)正しい服薬



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