高血圧症の病態生理
※高血圧症の継続的な治療を受けていると推測される患者数は約719万人、末治療の高血圧症患者も含めると、総患者数は3,000万人に及ぶ。高血圧症は非常に代表的な生活習慣病である。
 

※分類
血圧管理2000年のガイドライン
分類 収縮期(mmHg)    拡張期(mmHg)
最適血圧 <120 かつ <80
正常血圧 <130 かつ <85
正常高値血圧 130〜139 または 85〜89
軽症高血圧 140〜159 または 90〜99
中等症高血圧 160〜179 または 100〜109
重症高血圧 ≧180 または ≧110
収縮期高血圧 ≧140 かつ <90



※心血管病の危険因子とは?
 高血圧・喫煙・高コレステロール血症・糖尿病・高齢〔男性60歳以上,女性65歳以上)・若年発症の心血管病の家族歴
 

※高血圧症の病型分類
・本態性高血圧症:発症する原因が不明であり、白衣高血圧症を含む。
・高齢者収縮期高血圧症:動脈硬化に伴う大動脈の伸展性が低下するために発症する。加齢によって高血圧症の拡張期血圧が低下して生じるものと、老年期になってから収縮期血圧が上昇し、新たに発症するものがある。
・二次性高血圧症:原因疾患や原因薬剤が明確になっている。


※二次性高血圧の種類と原因
分  類 原因疾患・原因薬剤
腎性高血圧 腎実質性高血圧(急性・慢性糸球体腎炎、慢性腎盂腎炎、
糖尿病性腎症、多発性のう胞腎、水腎症、間質性腎炎など)
腎血管性高血圧(線維筋性異形成、大動脈炎症候群、多発性動脈炎、
解離性大動脈瘤、動脈瘤、塞栓など)
原発性ナトリウム貯留、レニン産生腫瘍
内分泌性高血圧 副腎性(原発性・特発性アルドステロン症、クッシング症候群、
褐色細胞腫、先天性副腎過形成など)
甲状腺性(甲状腺機能亢進症、甲状腺機能低下症など)
副甲状腺機能亢進症
下垂体性(先端巨大症、クッシング病など)
心臓・血管性高血圧、
神経性高血圧
大動脈縮窄症、大動脈炎症候群、大動脈弁閉鎖不全症など
脳圧亢進(脳腫瘍、脳炎など)、脳血管障害
その他(呼吸性アシドーシス、睡眠時無呼吸症候群、
急性ポリフィリア、自律神経失調症、鉛中毒、ギランバレー症候群など)
妊娠中毒による高血圧 妊娠中毒症
外因性高血圧 交感神経刺激剤・経口避妊薬・ステロイド剤・非ステロイド系抗炎症剤・
甘草・MAO阻害剤(抗うつ薬)などの服用、塩分の過剰摂取、
鉛中毒など
その他 カルチノイド腫瘍、多血症など


※モーニングサージとは?
朝起きて1時間から1時間半くらいの間に生ずる急峻な血圧上昇ないし血圧高値のことをいう。心筋梗塞や脳卒中などの心血管系疾患が増大すると考えられている。


※高血圧の自覚症状
頭痛・頭重感・肩こり :自覚症状として最も多く見られる症状である。頭痛や頭が重い。肩こりがひどいと感じることがある。
めまい・耳鳴り     :体が浮いている、ふわふわする、耳鳴りを自覚することがある
動悸・息切れ・胸痛  :どきどきする、息苦しい、胸が痛い等といった症状を訴えることがある。高血圧症が進行し、心臓や肺に合併症が現れると、これらの合併症が出現することがある。
浮腫・手足のしびれ  :腎機能が低下し、むくみが現れる。また、血液循環が悪くなり、手足のしびれや冷感を感じることがある。


※レニン-アンジオテンシン(RA)系:
 レニン-アンジオテンシン(RA)系はナトリウム(塩分)を体内に貯留させ循環血液量を増やしたり、血管平滑筋を収縮させ血圧を上昇させる生体の代表的な昇圧系ホルモンであり、高血圧の成因、維持や、動脈硬化の発症、進行に重要な役割をはたす。
 アンジオテンシノーゲンはレニンによってアンジオテンシンT(AT)になり、ATはアンジオテンシン変換酵素(ACE)によってアンジオテンシンU(AU)になる。
また、ACEはブラジキニンに作用して、ブラジキニンを不活性ペプチドに変換する。
 AUが腎臓の傍糸球体細胞に作用することにより、抗利尿ホルモンであるアルドステロンが分泌される。アルドステロンはナトリウムの再吸収を促進し、カリウムの分泌も促進させる。

レニン-アンジオテンシン系
アンジオテンシノーゲン

レニン(腎)

アンジオテンシンT

組織のキマーゼ

ACE(肺、血管内皮)

アンジオテンシンU
アンジオテンシンU受容体
AT1受容体
AT2受容体
血管収縮
血圧上昇
アルドステロン分泌
利尿作用
細胞増殖
血管拡張
血圧下降
NO産生
細胞増殖抑制
アポトーシス促進

血液凝固とカリクレイン・キニン系とレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系との相互関連について」


※高血圧症患者のリスクの層別化
高血圧グレード
収縮期血圧
拡張期血圧
grade 1
140-159
90-99
grade 2
160-179
100-109
grade 3
≧180
≧110

他に危険因子なし

低リスク
中リスク
高リスク

1〜2つの危険因子

中リスク
中リスク
超高リスク

3つ以上の危険因子、又は標的臓器障害か糖尿病あり

高リスク
高リスク
超高リスク

循環器系合併症あり

超高リスク
超高リスク
超高リスク


 

高血圧の治療

◆降圧剤の適応と禁忌
降圧剤の種類
積極的な適応
使用可能な適応
使用禁忌

使用を避ける疾患

降圧利尿薬

心不全

高齢者

収縮期高血圧

糖尿病

痛風

脂質代謝異常

sexually active males

β遮断薬

狭心症

心筋梗塞後

頻脈性不整脈

心不全

妊娠

糖尿病

気管支喘息

閉塞性肺疾患

2-3度のA-Vブロック

脂質代謝異常

運動家、活動的患者

末梢血管病

ACE阻害薬

心不全

左室機能異常

心筋梗塞後

_

妊娠

高K血症

両側性腎動脈狭窄

_

Ca拮抗薬

狭心症

高齢者

収縮期高血圧

末梢血管病

2-3度のA-Vブロック

うっ血性心不全

α遮断薬

前立腺肥大症

耐糖能障害

脂質代謝異常

_

起立性低血圧

ATU拮抗薬

ACE阻害薬による
咳の出る患者

心不全

妊娠

両側性腎動脈狭窄

高K血症

_





降圧薬の服薬指導例

降圧利尿薬 体内のナトリウム量を減少させ、血管内を循環する血液量を減らすことで血圧を下げる薬。
β遮断薬 心臓の働きを活発にするホルモンが、心臓の特定部位に結びつくのを遮断して、心臓の収縮をゆっくりさせて、血圧を下げる薬。
α遮断薬 血管平滑筋にある血管を収縮させるホルモンが、特定部位に結びつくのを遮断し、血管を拡げて血圧を下げる薬。
ACE阻害薬 血管を収縮させる物質を生成する酵素の働きを抑えて、アンジオテンUの産生を抑えて、末梢の血管を拡げて血圧を下げる薬。
ATU拮抗薬 血管を収縮させる物質が、血管の特定部位に結びつくのを防ぎ、血管収縮作用を抑えることによって末梢の血管を拡げ血圧を下げる薬。
Ca拮抗薬 血管や心筋を収縮させるカルシウムの血管の細胞内への流入を阻止し、末梢の血管を拡げて血圧を下げる薬。

 
 α遮断薬の服用を忘れたときは、副作用の発現と安全性を考慮し、飲み忘れに気づいても服用しない。次の服用時に決められた用量を服用する。
 α遮断薬以外の降圧薬の服用を忘れた場合には、思い出したときすぐに服用する。



日常生活指導

 高血圧症は特別な症状が出ないことが多く,サイレントキラーともよばれるほどである。知らない間に血管や心臓に負担がかかり,突然、脳卒中などを引き起こす場合がある。生活行動を改善させることが必要。

(1)食塩制限:塩分を1日7g程度に抑える
(2)適正体重の維持と運動
(3)禁酒・節酒
(4)禁煙
(5)栄養バランスのとれた食事



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