高脂血症の基礎知識・病態生理
※病態の説明
 高脂血症は、血液中のコレステロールや中性脂肪などの脂質が、正常範囲を超えて増加している状態をいい、この状態が長く続くと、血管にコレステロールがたまり動脈が狭く、もろくなり動脈硬化症に陥ってしまう。
 高コレステロール血症と判断される人は約2.630万人。

※リボ蛋白の代謝
 リボ蛋白の代謝経路は,基本的に以下の3つに分けることができる。
  @食事由来の外因性リボ蛋白代謝経路(カイロミクロン経路)
  A肝臓で生合成される内因性リボ蛋白代謝経路(VLDL-LDL経路)
  Bコレステロール逆転送経路(HDL経路)
  その他の重要な経路にスカベンジャー経路がある。

 カイロミクロン経路:食事により摂取された脂質は腸管でカイロミクロンとして血中に流出し、LPLの作用を受け、カイロミクロンレムナントを形成し、肝臓に取り込まれる。

 VLDL-LDL経路:肝臓で主として糖質から作られた脂質はVLDLとなって血中に流出される。VLDLはIDL、さらにLDLへ変化し、末梢組織でLDL受容体を介し,細胞内に取り込まれる。

 HDL経路:HDLは末梢の細胞からコレステロTルを抜き取り、CETPによってLDLやVLDLにコレステロールが転送され、LDL受容体を介して肝臓に取り込まれる。また、直接肝臓のHDL受容体を介して肝臓に取り込まれる経路などもある。

 スカベンジャー経路:酸化されたLDLはスカベンジャー受容体を介してマクロファージに取り込まれる。酸化LDLを大量に取り込んだマクロファージは泡沫細胞に変化し、プラークが形成される。


<リボ蛋白代謝図>






































※高脂血症の診断基準値(空腹時採血)
高コレステロール血症 総コレステロール(TC)≧220
高LDL-コレステロール血症 LDL-コレステロール(LDL-C)≧140
低HDL-コレステロール血症 HDL-コレステロール(HDL-C)<40
高トリグリセライド血症 トリグリセライド(TG)≧150



※LDL−C値以外の主要冠危険因子
冠動脈疾患(確定診断された心筋梗塞、狭心症)
加齢(男性≧45歳、女性≧55歳)
高血圧
糖尿病
喫煙
冠動脈疾患の家族歴
低HDL−C血症(く40mg/dL)


※病型の分類
 高脂血症は、血清脂質の値やこれらを運搬するリボ蛋白の増加の程度によって分類され、WHOの表現型分類と呼ばれる。また,原因により原発性高脂血症と二次性高脂血症に分類される。
  原発性高脂血症:明らかな遺伝形質を有する高脂血症
  二次性高脂血症:他の疾患または環境要因によって起こる高脂血症

※高脂血症における薬物療法の位置づけ
 高脂血症と診断されると、食事療法などの非薬物療法を数カ月行う。それでも血清TC値(LDL−C値)が,脂質管理目標値以上のときは、薬物療法の適応となる。薬物療法を開始しても生活習慣の改善を継続的に行うことが必要である。

※食事療法の効果
 適正なエネルギー摂取により、TG値、TC値の低下が期待できる。また食物繊維の摂取により、胆汁中のコレステロールの再吸収が阻害され、TC値が低下する。

※運動療法の効果
 運動を行うことにより,LPL(リボ蛋白リパーゼ)が活性化されTGの異化が促進される。したがって、運動によりTG値の減少が見られるとともに、HDL-C値の増加が認められている。

※生活改善の効果
 喫煙習慣:喫煙は冠動脈疾患の重要な危険因子である。喫煙はLDL−Cを上昇させHDL−Cを低下させる。また、ニコチンや一酸化炭素により、血管内皮傷害などを招き動脈硬化を促進させる。
 アルコール:適量のアルコールは,HDL−Cを上昇させるが、過剰であればVLDL−C合成が促進されて、TGが上昇し、HDL-Cは低下する。また、アルコールにより食事療法の乱れをきたしやすい。



高脂血症の症状・患者さんの観察
 ※高脂血症は一般的にほとんど無症状であるが角膜輪や眼瞼黄色腫、結節性黄色腫、アキレス腱黄色腫などがみられることがある。また、TG値が1,000mg/dLを越えると急性膵炎を起こし、腹痛発作が認められることがある。
・角膜輪:角膜周辺部にできる白色の輪状の混濁であり、コレステロールエステルが沈着しており高コレステロール血症で出現する。高齢者に多く、若年者で観察されると家族性高コレステロール血症の可能性がある。
     観察されると家族性高コレステロール血症の可能性がj
・黄色腫:やや柔らかい無痛性の腫瘤である結節性黄色腫が顔、頸、背部、腎部などにみられることがある。家族性高コレステロール血症では腱黄色腫が特徴的であり、レントゲン撮影によりアキレス腱の肥厚が確認できる。また眼瞼黄色腫もしばしばみられる。
   眼瞼黄色腫--上眼瞼、内眼付近に出現する黄色扁平な低い隆起

<二次性高脂血症の原因>
   コレステロール↑↑ トリグリセライド↑↑
疾患 甲状腺機能低下症 糖尿病
ネフローゼ症候群 肥満
肥満 アルコール多飲
閉塞性肝疾患 腎不全
神経性食欲不振 末梢肥大症
妊娠 全身性エリテマトーデス
肝癌 ウェルナー症候群
多発性骨髄腫 リボジストロフィー
自己免疫性疾患
小人症
ポフィリン症



※降圧薬の選択
高血圧は主要な動脈硬化危険因子の1つであるため、血圧が生活指導などにより改善しない場合、降庄薬を用いた薬物療法が行われる。サイアザイド系利尿薬やβ遮断薬は脂質、糖代謝に悪影響を及ぼすため、降圧薬の選択には配慮。

カルシウム拮抗薬 ACE阻害薬/ARB 利尿薬 β遮断薬 α遮断薬































高脂血症の治療

※食事療法
 通常、コレステロールは1日300mg以下になるように制限する。最も重要なのは摂取エネルギーの制限である。コレステロールの摂取制限を行っても、摂取総カロリー(特に糖質)が過剰であればコレステロールの合成が亢進し、血清コレステロールが上昇することになる。

※運動療法
 運動療法は高脂血症の一因であるインスリン抵抗性を改善させ、耐糖能以上の改善効果を有する。運動の種類としてはなるべく全身の筋肉を使用し、かつ一定時間継続可能な中強度以下の有酸素運動が好ましい。しかし、運動療法が禁忌の場合があるため医師の指示に従うこと。

※高脂血症治療薬の選択方法
 TC値を低下させる薬剤:HMG−CoA還元酵素阻害薬、プロブコール、陰イオン交換樹脂(ニコチン酸誘導体はこれらより作用は劣るが,軽症高コレステロール血症に適応)
 TG値を低下させる薬剤:フィブラート系薬剤、EPA製剤、ニコチン酸誘導体
(1)TC値のみが高い場合
  HMG−CoA還元酵素阻害薬を第一選択薬とし、効果が十分でない場合は増量する。増量しても効果が不十分な場合には、プロブコール、陰イオン交換樹脂、ニコチン酸誘導体のいずれかを併用する。
(2)TG値のみが高い場合
  フィプラート系薬剤を第一選択薬とする。効果が不十分な場合はEPA製剤あるいはニコチン酸誘導体を併用する。
(3)TC値とTG値がともに高い場合
  フィプラート系薬剤を第一選択薬とする。しかし,TC値の方がTG値より有意に上昇している場合は、HMG−CoA還元酵素阻害薬が第一選択薬となる。


※横紋筋融解症とは
 横紋筋融解症は骨格筋の融解,壊死によって筋細胞成分であるミオグロブリンやCPKが急激かつ大量に血中や尿中に放出される病態である。その結果、尿中へのミオグロビンの排泄が増加し、腎尿細管細胞が傷害され、急性腎不全を引き起こすことがある。
<処置方法>
 @薬剤性の場合には、原因薬を直ちに中止する
   CPK:正常値上限の10倍以上で薬剤の中止を打診
      筋肉症状と正常値上限の3倍以上で薬剤の中止を打診
 A全身状態と脱水所見等を考慮し、重症度の判定を行う
 B治療
   軽症:治療の必要はなく飲水奨励で十分
   重症:大量の等張生理食塩水の投与
       循環動態が安定し尿流が確認できたら,強制利尿と尿のアルカリ化
       腎障害を伴う場合には血液透析の導入

各高脂血症治療薬の主な副作用
高脂血症治療薬 主な副作用
HMG−CoA還元酵素阻害薬 横紋筋融解症、肝槻能障害、発疹
陰イオン交換樹脂 便秘、腹部膨満感、嘔気
プロブコール QT延長に伴う心室性不整脈
フィブラート系薬剤 横紋筋融解症、肝機能障害、下痢、発疹
多価不飽和脂肪酸誘導体 悪心、嘔吐、出血傾向(EPA製剤)
ニコチン酸誘導体 潮紅、発疹、そう痒感、熱感、嘔気
植物ステロール 眠気、嘔気、下痢、血圧上昇
デキストラン硫酸Na 食欲不振、出血傾向
エラスターゼ 食欲不振、下痢、発疹


副作用を回避するために投与前に確認しておくべき事項
薬  剤 確認しておくべき事項
HMG−CoA還元酵素阻害薬 肝障害またはその既往歴、腎障害またはその既往歴、
妊娠・授乳の確認
陰イオン交換樹脂 胆道が閉塞していないか、便秘を起こしてしいないか、
出血の有無
プロブコール 心室性不整脈、妊娠・授乳の確認
フィブラート系薬剤 腎機能、胆石またはその既往歴、妊娠・授乳の確認、
肝障害またはその既往歴
EPA製剤 出血の有無、手術の予定
ニコチン酸誘導体 重症低血圧、出血の有無
植物ステロール 肝障害またはその既往歴,妊娠・授乳の確認
デキストラン硫酸Na 出血の有無、腎疾患の有無




※HMG−CoA還元酵素阻害薬の用法・用量変更
 コレステロール生合成の主な律速酵素であるHMG−CoA還元酵素は日内変動することが知られており、HMG−CoA還元酵素阻害薬の投与時間はコレステロール合成の盛んな夜が望ましいとされている。

メバロチン  1日10mgl回投与と5mg2回投与では、同等の有効性と安全性を有ことが報告されている。また、1日10mgの長期投与において、朝1回と夕1回投与は、同等の有効性と安全性を有することが報告されている。
リポバス  1日1回朝食後または夕食後投与した場合の比較検討試験において、夕食後群が朝投与群に比べTC値の低下率が大きかったため、夕食後投与が効果的な投与方法であるとされている。
ローコール  二重盲検比較法では、夕1回投与群と朝・夕2回投与群は朝1回投与と比較し、TC値低下率や有用度は高かった。この結果と服薬の簡便性及びコレステロール生合成が夜間に亢進することを考慮し、1日1回夕投与が至適な用法であるとされている。しかし、朝・夕2回投与のほうがコンプリアンス向上が望めるようであれば朝・夕2回投与でも問題はない。
リピトール  朝1回投与と夕1回投与では、TC値とLDL−C値の低下に同等の効果が認められた





高脂血症治療薬の服薬指導例の服薬指導例
病態の説明をしてから薬効の説明を。
※病態の説明:高脂血症は、血液中のコレステロールや中性脂肪などの脂質が、正常範囲を超えて増加している状態をいい、この状態が長く続くと、血管にコレステロールがたまり動脈が狭く、もろくなり動脈硬化症に陥ってしまう。全身の動脈硬化が進行し、狭心症や心筋梗塞などの心臓病、脳血栓・脳梗塞、足などの閉塞性動脈硬化症などを起こす。予後が悪い。
※薬効の説明:この薬はコレステロールの腸管からの吸収を抑えたり、コレステロールの合成を抑えたり、排泄を促進することで、血液中のコレステロールや中性脂肪の量を下げる薬。


日常生活での注意

◇食事療法:
食べすぎは禁物。
動物性脂肪を控えめに。
コレステロールの多い食品は避ける。
食物繊維を多くとる。
ビタミンE・C,カロチンをとる。

◇運動療法:
適度な運動を毎日続けると中性脂肪を減らし,HDL-C(善玉コレステロール)を増やす効果がある。早足歩行、ジョギング、サイクリング、水泳 

◇禁煙:
タバコはHDL−Cを減らし、ビタミンCを破壊するなどして、動脈硬化を進める。

◇アルコール:
日本酒なら1合、ビールなら大ビン1本、ウイスキーダブル1杯。
アルコールの摂りすぎは中性脂肪を増やす原因となる。



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超低密度リポ蛋白VLDLは肝臓でTGから合成

超低密度リポ蛋白VLDL

中性脂肪豊富

中性脂肪
中間密度リポ蛋白IDL
―――――――――――→
肝臓に回収
中性脂肪
低密度リポ蛋白LDL

コレステロール豊富

――――→
――――→

コレステロールを末梢組織に転送

中性脂肪
小粒子
LDL
―――――――――――→
CETP(コレステロールエステル転送蛋白)

LDL、IDL、特に小粒子LDLは血管壁に取り込まれ酸化され動脈硬化の原因となる

コレステロール↑↓中性脂肪   

高密度リポ蛋白HDLは肝臓、小腸でコレステロールから合成

中性脂肪←

高密度リポ蛋白HDL
肝臓に回収
――――――→

血管壁、末梢組織のコレステロール

――抗LDL酸化作用――→

カイロミクロンは食事性脂質から小腸で合成

カイロミクロン

中性脂肪豊富

中性脂肪

カイロミクロンレムナント

中性脂肪豊富

肝臓に取り込まれる

 患者をLDLコレステロール値以外の主要冠危険因子の数により分けた
      6群の患者カテゴリーと管理目標値
* 冠動脈疾患とは、確定診断された心筋梗塞、狭心症とする。
** LDL-C以外の主要冠危険因子:1)加齢(男性≧45、女性≧55)、
2)高血圧、3)糖尿病、4)喫煙、5)冠動脈疾患の家族歴、6)低HDL-C血症(<40mg/dL)
患者カテゴリー
脂質管理目標値(mg/dL)
その他の冠危険因子の管理

 

冠動脈疾患*

他の主要冠危険因子**

TC
LDL-C
HDL-C
TG
高血圧
糖尿病
喫煙
A
なし
0
<240
<160
≧40
<150

高血圧学会のガイドラインによる

糖尿病学会のガイドラインによる

禁煙
B1
1
<220
<140
B2
2
B3
3
<200
<120
B4
4以上
C
あり
 
<180
<100
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